Gモト|ビハインド・ザ・ゲート「下田陽一」SoCal MXTF vol.2

sr141230banner

お待たせしました、ビハインド・ザ・ゲート鈴鹿編。今回の鈴鹿編は、2022年全日本モトクロス選手権第4戦近畿大会の衝撃参戦から2年ぶりに、全日本モトクロス選手権の参戦が発表され話題騒然、本場アメリカでトッププロとして活躍する下田丈選手の父「Socal MXTF 下田陽一氏」vol.2をお届けします。

今回は、さらに深くライダーの父として、全日本モトクロスOBとしてお話しをしていただきました。「自分が生きているうちに見れるとは思わなかった」と誰もが思う夢のような活躍を魅せている下田丈選手の原点に迫ります。

 

ここからは、下田丈選手と下田氏が「ゼロ」から積み上げた経験をベースとし、今だから話せる想いや伝えたい事を記事にしています。

世界で活躍するトッププロを目指すためにベースとなる考え方
1番わかりやすいのが「野球の佐々木 麟太郎選手」。佐々木選手が高校卒業後に選択した進路は「スチューデントアスリート」現在大学ランキングで世界・米国内ともに第2位スタンフォード大学への進学、そこから最短でMLBへ。これに対し「なんで」という世の中の声が多かったじゃないですか。とはいえご本人は「人としての幅を広げたい」という内容の事を言ってたんですが、まさにそういう事ではないでしょうか。様々な事を汲み取れる力や考える力など。私は「勉強しろ!練習しろ!」と言いますが、国語や算数の勉強であったり、朝から晩までバイクに乗るとか、意味の無いトレーニングを一生懸命する。これは非常にナンセンスだと思うんです。やはりバカではダメなわけで、私が勉強する事を勧める際の事柄は、大学生だったり、成功者であったり、次元の高い内容の活動をしている人だったり、そのような人達と交流を持つ。そうする事によって、この狭い業界だけじゃなく、人と人とのつながりが変わって行きそこで様々な考え方に触れ向上していける。物事への取り組み方が理解できる。私の言う「勉強」とは社会で生き抜くための勉強です。

日本国内でのプロライダーとしての活動
私は丈のモトクロスに関して、初めから全日本モトクロスを目指さなかったんです。なぜかと言うと、聞いていたというのもありますが「ナショナルでプロとしてやっていけるのは日本だけ」。まあアメリカもそうなんですけど、ちょっとアメリカは別として、国内選手権でプロが成立するのはメーカーがある日本独特。ヨーロッパの選手達は、国内選手権ではプロクラスがあったとしてもプロライダーとしては成立しません。だからMXGPに参戦する訳です。だからそれと同じで、全日本モトクロスだけでプロとして活動させると考える事自体がナンセンスなんだろうっていうのがあったんです。そのような事が前提にあり、MXGPを目指すのか、アメリカを目指すのかという選択肢しか考えなかったんです。結果アメリカを選択し、スポーツ留学と捉え私達のアメリカでの活動が始まりました。

 

2014 FIM ジュニアモトクロス世界選手権 ベルギー大会 65cc 表彰台。2位 下田丈(左)、優勝 ジェット・ローレンス(中央)。

下田選手の現在の活躍は、経済的な事も含め、環境が揃っているからではない
それは思います。そのような自負はあります。でも、金銭の部分ってどうなんでしょうね。他の人達が私達のようにできない? それは違うんじゃないかと、例えばロードレースの世界、フォーミュラの世界を見たら、あの業界と比べたら、モトクロスなんてレース活動自体に必要とする金額はかなり少額。出来ない事は無いと思います。

 

海外でのレース活動
これは、本当にやってる人にしかわからない。今後、私の経験を伝えていきたいと考えてはいるんですが。でも、私達は最初から「アメリカで楽しいモトクロス」なんて考えていなかったです。ベンチマークは高いとこころにありましたし、やっぱりアメリカでファクトリー契約で走らないと何にもならないのだろうって考えてました。そこを目指すためには、まずはロレッタリンでタイトルを獲る事が一番の近道という事で、ロレッタリンだけを目指してやりました。スーパーミニクラスは一般的に15歳まで経験しステップアップしていくのが通常なのですが、丈は1年前倒しの14歳でスーパーミニクラスのタイトルを獲りました。

 

その結果があって、チームグリーンカワサキ、ファトリーコネクションホンダ、スズキとファクトリーアマチュアプログラム契約の話しが来て、流れよくフルサイズクラスへのステップアップが出来ました。先を考えれば、フルサイズになったらプライベーターでは無理だというのはわかっていたので、勝てる環境を作る為に、ロレッタリンでのタイトル獲得は絶対必要なことでした。それまでノウハウもないまま完全にプライベーターでレースしていたので、これで「勝ちにこだわってレースができる」という環境が整いました。

 

結果を残せば自然と環境が整う?
確かにそうです。その辺はしっかり勉強しました。アメリカはレース数が多い(年間30レースぐらい?)のですが、その中で5レース「全米アマチュアナショナル」と言われるビッグレースがあります。大体1レース一週間かけてのイベントです。ライダーは10月に契約締結後すぐ11月にシーズン開幕です。まずはフロリダで開催されるMini O’s、次にデイトナスーパークロス、次にテキサスで開催されるフリーストーンスプリングクラッシック、次にカリフォルニアマンモスモトクロス、そして最後が全米アマチュアナショナルチャンピオンシップロレッタリンです。前記のナショナルを中心にレース活動を続けクラスはまちまちでしたがフリーストーン以外は全てチャンピオンを獲りました。アマチュアでのキャリアがしっかりと評価され今があると思います。

 

アメリカでレース活動する以外に参戦した海外のレース経験は影響しますか?
2013年11歳の時に日本からは1人でチェコで開催されたジュニアモトクロスワールドチャンピオンシップにチャレンジしてからベルギー、ロシアとヨーロッパでもレースしました。全く文化の違う土地でのレースは食料も調達できず大変な思いをしました。それでも用意してもらう与えられた環境で戦わなければならないところで物怖じしない性格とタフさは身につけたと思います。

 

アメリカはトッププロを目指すという事が明確化されていますか?


されています。私達がアメリカに行けばやはり、日本人、東洋人なんで目立つんです。コースに来ている現地の方々と話して「モトクロスをしに来たと」。そうするとね、現地の方々が「レースをしに来たの?ファンライドしに来たの?」って聞いてくるんです。レーシングとファンライドの違いは当然大きくて、「レースをしに来ている」と答えたら、「凄いな」ってなるんですよ。だから「レース」イコール「全米ナショナルを目指す」という意味。皆さんアメリカはライダー人口多く感じるかと思うんですが、アメリカで「全米ナショナルを目指す」というキッズライダーはごく少数だったりします。

 

2017 モンスターエナジーカップ、アマチュアオールスターズクラス表彰台。3位 下田丈、優勝 ハマカー、2位 ブラウン(L→R)

とても明確なんですね
そうなんです。だからこそ「そこを目指している」ライダー達の価値が高く、スポンサーもそれなりにキッズライダーの時から付いています。キッズライダーなのにウエアーやヘルメットの広告に使われていたり、ダンロップタイヤユーザーで成績を残すと「ダンロップエリートライダー」に選ばれるんです。ダンロップのWEBに載っていたり、エリートライダーだけに提供されるアパレルなんかもあったり。アメリカはそういう手法が上手ですよね。いつかああいう風になりたいと羨ましく思っていました。

 

2018 モンスターエナジーカップ、アマチュアオールスターズクラス表彰台。2位 スウォル、優勝 下田丈、3位 ドレイク(L→R)

現在の下田丈について
んー、皆さんに良い評価をいただく事もあるんですが、私はそうは考えていません。250ccは、まだ育成クラスなわけでリザルトも足りない。モトクロスや丈の事を知らない人達が、ニュースとして見た時に、インパクトが足りなさすぎる。やはりプレミアクラス、世界最高峰クラスに参戦している、なおかつチャンピオンでないと。「日本人初の快挙!」で、3位では弱いんです。一般の人からしたら。だからトップカテゴリーでチャンピオン獲らないと。業界を知っている人達は評価してくれますが、知らない人達からしたら、分かってもらえないと思うんです。だから1年でも早くファクトリーチームから450に上がりチャンピオン争いするというポジションにいかないと、メディアに「もっと取り上げてくれ」とは言えません。現状、言えるとしたら「そこを目指す丈」のサクセスストリーを皆さんが共有していただけたらありがたいです。今はまだそのポジションです。

 

現在の下田丈に足りない事
環境はほとんど整っていると思います。今シーズンHRCで走らせていただいて、HRCの環境を本人が理解しています。やっぱりサテライトとは違う、当然ですがファクトリーチーム。思った事をすべて形にしてもらえる「言い訳のでいない環境」。今までなら、多少バイクの仕上がりが等、言い訳ができたけども、現在はほとんどできない状況にある中で、レースでの課題に対し何が問題点なのか? バイクは良い状態なのに遅れをとっている? チームを移籍して初年度で自分のベースセッティングを合わせるのに時間がかかってしまった様です。シーズンも終盤戦ですが徐々に上向きになってます。ラップタイムもフィジカルも克服できてますから、勝てるポテンシャルは十二分にあると思ってます。


 

ライダーと親の関係
スーパークロスという短いレースの中で、できていない事を克服する。そこは本当に本人次第。ただ、ここまで来るとレベルが高すぎて私達が「こうしろ、ああしろ」とか言えることはないです。私もレース経験をしてきたので知っているつもりでしたが、時代は常に進化していますし、当時に比べたらバイク性能も別物です。アメリカで活動するようになり、レベル差の大きさに驚異を感じました。そこから、アメリカはコーチ業も盛んですし「もうこれ以上はプロに任せないと」という考えになり「これがモトクロス先進国のやり方なのか」と気付かされました。現在までコーチは6人ほど変わっています。ライディングはムスキャンをチャンピオンまで導いたという実績のあるコーチに作ってもらい、現在は練習のプログラムやレース時の帯同トレーナーとして元プロライダーのニックウェイとタッグを組んで戦ってます。丈との相性も良いです。とはいえ、親として口を出したい時もありますが、グッと堪えて見守っています。その結果が今です。今でも親として支えれる事はしていますが、丈自身がプロとして仕事をキッチリしないとという想いでやっています。

 

プロライダーとしての自覚が生まれる時
14歳でロレッタリンのタイトルを獲りました。そこからはレースに対する内容の話しではなく「今まで積み上げてきた努力」が結果になり、「人として」も言えることですが皆さんが憧れる誰もが出来ない、言うならばスーパースターへの仲間入りというか、そういうポジションまで来てる訳じゃないですか。目的に向かい努力する事によって、こういうポジションが手に入り、あらためて客観的に自分を再確認し自覚が生まれ、今は子供達の「夢」とされるポジションで、大人としてしっかり仕事できていると思います。


 

親としての変化
当初は、ドカベンスタイルでレースを始め、渡米しスポーツ先進国でのモトクロスを知り、家族チームにメカニック、トレーナーが加入。チームジョーでロレッタリンタイトル獲得後、年々、丈の環境に変化が起きました。将来というか、もう少しで目的とするところまで達成できるかもしれないというポジションまで来た訳じゃないですか。日々、現実を実感し始めた頃から「この4〜5年」で私自身の考え方が大きく変わりました。最初に話したベースとなる考え方、あのような考え方は当初は本当になかったんです。

 

下田さんご自身の経験を踏まえ、トッププロを目指す皆さんに伝えたい事


「もっと本気でやって欲しい」これが本音です。本気の人が居ないと感じます。本気がどんな事かを理解して欲しいです。世界を見れば私たちがアメリカにチャレンジしている様にヨーロッパやオーストラリアからAMAにチャレンジし、活躍している選手がたくさんいます。人生賭けてチャレンジしている本気な奴らがいるんです。じゃあアメリカにチャレンジする事が敷居が高いのであれば、国内で環境の良いところ、例えば鈴鹿の私たちの施設(Socal MXTF)の環境が良いと思ってもらえるのであれば鈴鹿に引っ越して来れば良い。海外では必要になってくるビザもステータスも何も要らないです。レース活動を生活の軸に持ってこないとダメだと思います。

 

いかがでしたか?皆さんはどのようなご感想をお持ちになったでしょうか?もっともっと深いお話しをしていただいているんですが、今回はこのような内容にまとめてみました。

とはいえ、お話しいただいた内容は的確なリアルスタンダード。現在、パリではオリンピックが開催されていて、多くのトップアスリートが活躍されています。その1人が下田丈選手だと考えれば、今回の内容のように「本気」で取り組めば下田丈選手に続けるはず!

「本気の人いないでしょ」。これはライダーだけではなく、取り巻く環境を作る側にも共通する事なのかもしれません。私自身も身が引き締まります。

ライダーの皆さん、日本唯一と言っても過言ではない「モトクロストレーニング施設 SocalMXTF」の扉は開いているようです。この環境があるからこそだと思いますので「本気」という皆さん、もっと深い話しを聞きたければ、扉をノックしてください。
レースファンの皆さん、下田丈選手がどこまで駆け上がって行くのか、このサクセスストーリーを共有し応援していきましょう!

まだまだ続くよ、ビハインド・ザ・ゲート鈴鹿編。ではまたー。

 

ビハインド・ザ・ゲート – The Newsmoto

GSPEED-TOKYO


Gモト – The Newsmoto

Octopi Media, Socal MXTF


You may also like...