モトトーク|「JO SHIMODA Story」下田陽一 vol. 1

sr141230banner

特に決まったテーマを設けずに、モトクロスやオフロードバイクを愛する様々な方にご登場いただきまして、その想いや情熱、思考を自由な形で共有していこうという企画「モトトーク」。

Gモト|ビハインド・ザ・ゲート「下田陽一」SoCal MXTF vol.3

今回は、コチラの記事での大きな反響も記憶に新しい、下田丈選手の父親である、下田陽一さんに再びご登場いただきます。

上記リンク先記事を始め、2024年全日本モトクロス選手権第7戦 TOKIO INKARAMI Super Motocross大会プログラムでも下田丈選手関連のコンテンツには原稿だけでなく、企画や構成に携わっており、その延長線上として今回の下田陽一さんとのインタビューはスタートしています。

下田丈選手のモトクロスとの出会いから、現在のAMAトップライダーまで上り詰めたストーリーを父親からの目線で振り返っていただいた前回の記事。今回は先の記事内容の延長から 2025 AMAスーパークロス開幕直前ということで「現在」の下田選手を取り巻く環境を父親、そして「Team JO」としてお答えいただきました。

エンジョイ!

 

【丈選手の成長過程やエピソードについて】

Q:下田丈選手がアメリカでレースを始めた頃(アマチュア時代)、特に大きく挫折した瞬間はどのようなものでしたか?その時の彼の反応や、親としてどのように苦境を乗り越えるサポートを行ってきましたか?
A:はっきり言ってアメリカでの生活やレースに深く携われば携わる程、挫折を味わいました。例えば言葉の問題からはじまり生活習慣やルールの違い、白人スポーツなアメリカのモトクロスでの差別感、初めの頃は誰にも頼る所が無いところからスタートでしたから。先人の方達も生活していく為に大変な時間と労力を重ねてきたことはすぐ理解できたので、容易く聞くなんてことは出来なかったです。全てが勉強でした。しかも小学校をドロップアウトしてモーテル泊まりのジプシー生活でしたから。こんなことを続けていて大丈夫なのか?と我に返る事は何度もありました。でも、それでもレースしないといけない。すごい葛藤がありました。そんなアメリカでのレース活動スタートでしたがやはりアメリカには夢がある。ってところなのでしょうか。その当時はCAにはマイルストーンやペリス、スターウエストなどナイター設備を完備したコースが沢山有り毎晩ミニナイトと称してキッズ達が切磋琢磨していました。ミニクラス(65cc)ながらプロサーキット仕様バリバリのチームグリーンライダーやKTMオレンジブリゲード、Factory Cobraなどファクトリーサポートのライダーが沢山走っていて衝撃と共にとても憧れました。そのキッズライダー達にはヘルメットやウエアなど沢山スポンサーも付いていて雑誌の広告にもなっているんです。そんな世界を知ってしまったら最後『あそこを目指そう!』っとなったわけです。

Q:これまでの練習やレースでの悔しい経験が彼の現在のスタイルや考え方にどのような影響を与えたと感じていますか?特に象徴的なエピソードがあれば教えてください。また、そのような経験を克服することで得られた利点は、ありますか?
A:キッズの頃のリザルトって、あまり日本の皆さんは興味無かったかもしれませんが全米選手権ロレッタリンを65ccの頃からチャレンジしてきて走れば3位とか入賞してきました。しかし、1位ってなかなか取れずに今の今まで来てしまったので、本人が1位以外は悔しいのか納得してしまっているのかは正直わかりません。私としては1位に拘って欲しいし、もし妥協があるなら絶対ダメだと思っています。でもロレッタリンみたく、スプリントレースの一発だけだと勝負をかけることができますが、プロになり長いチャンピオンシップをコンスタントに戦うには8割ぐらいで自分をコントロールする能力が必要になってきます。小さい頃無理しながら無理くり手に入れたスピードの反面、怪我したり痛い思いしながら培った経験が今生きてきているのかもしれません。

 

【2025年シーズン開幕に向けた準備について】

Q:2025年シーズンの大きな目標に向けて、丈選手が特に意識している改善点や課題はどのようなものですか?また、それを克服するために具体的な取り組みを行っていますか?
A:マシン作りもそうですがまずはスタートでしょう。マシン作りに関しては今年はHRC 2年目となり、新型でモデルチェンジがありましたがベースセッティングはそこそこの状態からスタートできているようです。拠点もフロリダへ置きしっかり乗り込み重視でオフシーズン調整しています。スタートに関してはテクニックももちろんですが、マップやクラッチ、ギヤリングなど色々テストしています。あとは体重ですね。ライディング、トレーニングで大きくなった体が不利だということでリーンに調整してるようです。これも難しくて、せっかく上げたパフォーマンスを発揮しにくくなったり免疫が下がってしまったり、ロードレース(自転車の世界)なんかを参考に専門家にアドバイスをもらいながら取り組んでます。

Q:オフシーズンで取り入れた新しいトレーニング方法や、チームとの連携で強化した部分があれば教えてください。それがどのようにレースに影響すると考えていますか?
A:2025年は、フロリダに拠点を移して「Moto Sandbox」(ケン・ロクスンも長年拠点とするSX & MXトレーニング施設)と契約をして環境の良いところでスタートします。カリフォルニアは最近閉鎖されるコースが多くなってきてだんだん走れる場所が少なくなってきています。スーパークロスに関してはメーカーのテストトラックと数箇所パブリックがあるだけになってしまいました。新しい拠点のクレアモント(フロリダ州)というところはスポーツが盛んでいろんなアスリートが集まっている場所のようで、他のカテゴリーの選手達と刺激し合いながらトレーニングしやすいそうです。自転車に関しては街全体サイクリングロードが整備されているそうで安全にトレーニングに集中できるみたいです。レースの開催場所や気候含め総合的にイーストコーストに拠点を置くというのが主流になってきているのも理解できます。

Q:父親として、今季のタイトル争いを見据えた中で丈選手に特に伝えたいアドバイスや、心構えについて具体的にお聞かせください。
A:ありがちですが、何が起こるかわからないのがレースなので毎戦しっかり準備をしてやってきた事を再現する。妥協はしない。

Q:2025 シーズンに向けたバイクのセットアップや技術面での新たな挑戦について、どのような改善や変更が行われているのか知りたいです。
A:大きなところで新たな試みというものはないと思います。去年の車両は確かにローレンス兄弟が作り上げたチャンピオンマシンでした。しかし、それが丈のライディングにマッチするかというと、そうでも無かったようでベースセッティングを出していくのに時間がかかってしまったという事です。チームも実績があるマシンですから大きく仕様変更はしたく無いですよね。そこに大きな問題がありました。なので、ほぼ一年小さな仕様変更をテストし続けたシーズンでした。今年は去年方向修正してきた車両でシーズンインできるのでかなり良いのではないでしょうか。

 

【ライバルやチームメイトとの関係性・力関係について】

Q:一昨年のビアルに続いて、プラドというビッグネームがMXGPチャンピオンとして新たにAMAへの参戦を開始。若く才能あふれるMXGPライダーたちがヨーロッパからAMAへの参戦希望を公言することも増えてきていると思います。KTM破産のニュースもあり、近い将来にAMA勢力図に変化が訪れるとお考えですか?だとしたら、それはどのようなものとなるでしょうか?
A:MXGPのことはあまり分かりませんが若さと世界チャンピオンのタイトルと共にAMAに来るのは脅威と感じます。若さについてはビアルもプラドもほぼ(下田選手と)同世代でまだまだ同じように成長が期待されること。カイ・デ・ヴォーフも脅威となるでしょう。そんな可能性のあるライダーがGPタイトルを引っ提げてくるとステータスまでも簡単に手に入れてしまうんです。日本からのチャンレンジもこの流れがいいのだろうと思います。不景気の話は世の中の景気と同じように出てくる話で今に始まった事ではありません。ただ今回のKTM破産は衝撃的でしたが…。でも、いちチームが撤退したり縮小したりそんな中でヨーロッパからのライダーの層も厚くなってくると確かにファクトリーシート争いは激戦になってくるでしょう。

Q:ホンダファクトリーチームでのローレンス兄弟やチャンス・ハイマスとの日常的な関係性について、特に印象的なエピソードがあれば教えてください。同世代ライバルでありながら同じチームメイトとしてどのように影響し合っていますか?
A:エージェントもチームも同じで今となっては拠点もフロリダで同じですが、日常的に馴れ合いになる事はないようです。

Q:現在のAMAを席巻しているローレンス兄弟。タイトルを複数獲得している彼らと比較して、丈選手が持つ「彼らにはない武器」や強みとはどのようなものだと感じていますか?
A:ダレン(ローレンス父)率いる「チームローレンス」は確かにタイトルを沢山取りました。ダレンが作りあげるマシンを兄弟が走らせるスタイルです。一方で丈は、まだタイトルゼロです。しかし丈は自分で考え分析して協力者と共に戦っていくスタイルです。『戦う』より『闘う』が正解かもしれません。後にどうなっていくのかはみなさんで追いかけてみてほしいと思います。

Q:逆に、ローレンス兄弟やハイマスの走り方や戦略を観察する中で、丈選手が学んだことや、それを自身のレースにどのように応用しているのか具体的にお聞かせください。
A:完璧なマシンセッティングは無い。足らない所はライダーが補っていくという事でしょうか。身近でジェットなんかを見ていると少々マシンが暴れていてもプラクティス、ヒートと進んで行くに連れてライディングでアジャストしているように見えます。過去、丈にもありました。レース当日マシンがしっくり来ない『これ以上プッシュしたら多分転ける』と。その後、案の定転倒しました。自分の力量というかアジャスト代を理解しておく冷静さも必要なのだと思います。

Q:タイトル争いの相手として、ヘイデン・ディーガンを筆頭にキッチン、ハンプシャー、ビアル、フォークナー等の他の250クラスを代表するトップライダーたちとの具体的な力関係や互いに感じるプレッシャーについて、丈選手と話し合ったことがあれば教えてください。
A:適度なプレッシャーは必要でしょうが、言わなくても本人が一番感じてると思います。当然、毎戦勝ちにこだわって準備はしますが、何が起こっても絶対悲観的にネガティブにならない。テンション下げるような昔のドカベンスタイルは卒業しました。それが守れたらまあまぁ楽しめてるのではないでしょうか。シーズンは長いですしコンスタントに戦えると言うところが丈の持ち味でもありますから。

Q:丈選手がレース中にライバルたちと直接対決した際の、特に印象深いエピソードや、そこから得た教訓があれば教えてください。
A:レース中のライバルとの出来事ではないですが、フロリダに来て先日、ジェームズ・スチュワートから連絡があって、丈の練習を見に来たそうです。そこで頼んでもいないのにライディングのアドバイスを少々。あとは延々と親父が厳しかった愚痴をこぼしていったそうです。フィジカルなど一切無し、ひたすらライディングで一日コース100周回でペットボトルの水に砂糖を放り込まれてヒート練習させられてたそうです。そんなエピソード聞いてどう思ったんでしょうね。

Q:2025 シーズン、ライバルたちに勝つための「秘策」や、前回のインタビューにありました、「Team JO」としての目標や戦略について教えていただけますか?
A:携わる全員が丈を勝たせるために一切妥協しないエンゲージメントを強化していくことが一番大事だと思っています。その為には丈本人にライダーとして、人間として、可能性としてなどいろんな魅力が必要だと思うんです。

 

今回の「モトトーク|「JO SHIMODA Story」下田陽一 vol. 1」いかがでしたでしょうか? 最も近くで下田丈選手のレースキャリアを支え続けてきた、父親目線でのオフシーズンから今季開幕に向けてのお話は、ここでしか明かされていないような興味深い内容が盛り込まれていたと思います。

下田陽一さんとオンラインミーティングを重ねて行く中で、父親としてだけではない、丈選手と共に不慣れな環境で今日まで戦い抜き、これからも世界最高峰のフィールドでさらなる頂点を目指していく「戦友」のような一面も垣間見れることが度々ありました。

オフレコの内容も含めてなのですが、その経験や苦労、覚悟といったものを耳にする度に「すごいですね…」としか言えない自分のインタビュアーとしての不甲斐なさを感じると同時に、下田さんの言葉に何度も目頭が熱くなることもありました。

今回は、2025 AMAスーパークロス開幕直前ということで、250SXウエスト参戦が正式発表されている下田丈選手の近況に迫るような内容を中心にお話を聞きました。今記事を読んで、今季の下田丈選手の活躍にこれまで以上のワクワクドキドキな期待感を抱いていただけることでしょう。

Gモト|ビハインド・ザ・ゲート「下田陽一」SoCal MXTF vol.3

Honda Racing Corporation


You may also like...