「たまMOTO」特別編|竹中純矢選手スペシャルインタビュー(vol. 2)
昨年の暮れ、2017シーズンの体制について様々な噂が飛び交っていた時期、えかきやの元に「竹中純矢選手引退?」という未確認情報が飛び込んできました。SUZUKIファクトリーに所属しIA2クラスで活躍したトップライダー中のトップライダーがまさか…という思いと同時に、2017年 SUZUKIはIA1だけらしい…という噂も耳にしていたので「万が一ということはあるのかも」とも考えました。
噂を耳にした直後、たまたま竹中選手にお会いする機会に恵まれたので単刀直入に質問してみたところ「ホントに引退しますよ」との答え。そして逆に竹中選手から「お世話になった方々には徐々にですが直接お知らせしているんです。でも、僕SNSとかをあまりやっていないのでファンの皆さんにお伝えする術がなくて…できたら「The Newsmoto」を通じてお知らせできないでしょうか?」という相談を受けました。
年が明けて1月、新しい進路が決まったというお知らせが届き、いよいよインタビューをさせていただくことに。引退を決意するまでの経緯やレース活動中の想い出話などを伺いました(vol. 1 は下記リンクから)。
「たまMOTO」特別編|竹中純矢選手スペシャルインタビュー(vol. 1)
【インタビュー後編 vol. 2 】
- 就職活動と今後の生活
【社会的常識がずれてるんじゃないかと心配です】
たま:そんなこんなの体験があっての、年末に悩んで就職するという選択をして就職活動をされて…
竹中:まあ、たいへんでした。
たま:レースをしてましたっていう話もしたんですか?
竹中:それはしないとだめですよね。お金もらってやってましたからね。それを話して、モトクロスを辞めた理由を聞かれ…(苦笑)まあ、就活の準備がぜんぜんできなかったのでテストはズタボロだし…大変でした。出来る限りのことをやってなんとか内定もらって2月から仕事と。内定もらって1ヶ月足らずで仕事ですよ。早いですよ。
たま:全く違う世界に…
竹中:そうですね。大丈夫ですかね?
たま;不安ですか? モトクロスやってたぶん体力面とか朝の早起きとかは一般の人ほどには辛くないんじゃないですかね?
竹中:どうなんでしょうね? 仕事してみないとわからないですからね。まあ大丈夫だと信じてはいるんですけど。どちらかというと「社会的常識」みたいなものがずれているんじゃないかとか、そっちの方が心配です。
たま:大学行ってたし、レース以外の友人もいたからそのへんは大丈夫なんじゃないですか?
竹中:だといいんですけど。やっぱりライダーですからね。ちやほやされてましたからね。持ち上げられていたところに、今度はいきなり底辺からじゃないですか?
たま:その自覚があるんだったら大丈夫ですよ
竹中:大丈夫ですかねえ?
- ご両親の想い出と子供の頃の話
【人生の開幕戦は完走できなくてひたすら泣いてた記憶が…】
たま:まあ、すぐにはレース観に来ようっていう気にはならないと思うんですけど…
竹中:軽く10年くらいはならないんじゃないですかね
たま:そんな先?!! その頃には子供がいるんじゃない?
竹中:子供連れて行くかもしれないですね。いや、子供いたら行かないかな? うっかり(モトクロスに)ハマられたら困りますからね。「乗りたーい!」なんか言われた日にはガタガタ震えるしかないですからね(苦笑)
たま:そういえばご両親は「就職する」という選択についてどういう反応でしたか?
竹中:母は「いいんじゃない?」と「そっちのほうが安心だし、五体満足な状態で終われるならそれはよかった」と。父は「できれば(レースを)続けて欲しいけどお前の人生だしいい分岐点ではあるから、そういうことを理解した上で少しでも乗りたいと思うなら乗りなさい。乗りたくないんだったら就職しなさい。出来る限りの手助けはしてあげるよ」と。
たま:そもそもはお父さんがモトクロスを好きで竹中君も乗り始めた形ですか?
竹中:そうですね、父の同僚の人がモトクロスをやっていてそれで一緒に乗る?みたいなカンジで父がハマって、それで母もちょっと乗ってたんですよね。趣味ですけどね。それで僕もちっちゃい頃からコースに連れていかれて、父はYZ125の前とかに2歳の僕を乗せて全開で走ってたらしいです(笑)。そらスピード感覚も鈍るわ、って思いましたね。強制的に鈍らされてたんだ!って(笑)
たま:自分で「レースが楽しい」って思うようになったのはいくつくらいの時ですか?
竹中:覚えてないんですよねー。ただ、人生(初)の開幕戦は完走できなくてひたすら泣いてた記憶はあります。一人でちゃんとバイクに乗れるようになって1週間とかそこらでレースに出たんですよ。初戦は桶川でどしゃぶりの雨で「よーいドン!」で、カシャンてバー降りてスタートして10メートルくらいで終わったらしいです。僕のせいではなくて泥が重くてタイヤの間に入っちゃってどうしょうもなくてっていう。他にも完走できなかったコはいっぱいいたんですけどそれでも悔しくて。それがあったから僕、雨が強いんですよ。それから死ぬほど雨の練習しましたもん。
たま:悔しさをバネにして?
竹中:そうですそうです。だから50の時から雨は敵なしでしたね。65の時なんか雨降ったら「あ、勝ったな」って言うくらいの勢いで。
たま:面白いねえ。竹中君はそういう所ちょっと特殊でしたよね。ほぼ(練習コースは)成田しか走ってなくて…
竹中:成田の冬はマジで毎週マディですからね!晴れてるのにマディですからね(笑)
たま:おかげでIAデビューした時から雨には強くて…
竹中:ほんとに(笑)朝凍って昼解けて夕方また凍りだすっていうローテーションを毎週土日繰り返してて。
たま:ある意味東北の選手と近いものが…
竹中:ありますね。雪が積もっているかいないかの違いくらいで(笑)
たま:デビュー戦の時から「悔しい」っていう気持ちがしっかりあったんですね
竹中:そうですね。なんでだろうな。走れなかった自分が嫌だったんでしょうね。で、その時に表彰台を見て「あのシャンパンファイトがしたい」って親に言ったらしいです。で「あれをやるには勝つしかないな」ってなったらしいです。今、冷静に考えると「別にシャンパンファイトなんてシャンパン買えばできるんじゃね?」って話なんですけどね(笑)
たま:(笑)あそこ(表彰台)でやりたかったんでしょう?
竹中:あそこに乗ってやるのがよかったんでしょうね(笑)
たま:ほんとにあそこに乗ってシャンパンファイトができたのはいつだったんですか?
竹中:覚えてないんですよねー。チャンピオンとったのは2年めだと思うんですけど…小学2年生で65に乗ってるんで、小学1年生はチャンピオン取り逃してるんですよね。小学生上がる前の年に棚ぼたでチャンピオンとったんですよ。初シャンパンファイトはその時じゃないですかね? その時はほぼずっと全戦3位だったんですね。最終戦だけ勝ったんですよ。そしたらチャンピオンとっちゃったらしくて。すごいですよね(笑)そのレースの写真が家に飾ってあるんですけど、スタート直後の1コーナー、バイク4台分くらい差がついてるんですよ。スタートした直後からぶっちぎりでしたね。
たま:押さえるところは押さえるというのは当時からあったと(笑)
竹中:いい場面は押さえてたんでしょうねえ(笑)「ココ!」っていう時は無意識によくわからないままに押さえてたんでしょうね(笑)
- ライダー友達のこと
【熱田さんと2人で映画観にいったことあるんですよ。それがホモの映画で…】
たま:そんなカンジで成長してA級にあがってプロになって6年頑張ってひとまず終了と。
竹中:「お世話になりました」っていう気持ちですね。
たま:同期のライダーっていうと小川選手,安原選手…
竹中:今、主流でがんばってるのはその2人ですかね。バトってた同期はその2人ですね。
たま:「お先に失礼します」になっちゃいましたね。
竹中:その2人には昨年末のダンロップの懇親会で挨拶してきました。
たま:じゃあ、ライダー仲間にはもう伝えてあるんですね。
竹中:そうですね、あと何人かは知っているはずですけど。僕、基本的にあまりライダーと繋がりがなくって…
たま:たしかに、わりと友達少なかったですよね(笑)
竹中:ぜんぜんいなかったですねー(笑)チームメイトにならない限り友達にならない…みたいな。
たま:そういう意味では遊んでくれる先輩でよかったですね(笑)
竹中:ほんとですよー。そういえば僕、一度、熱田さんと「暇だから映画行くか?」つって映画観にいきましたからね(笑)
たま:まじで?!!(笑)
竹中:事前テストで熱田さんの飛行機の便が早い時間しかなくて。「時間あるから映画観にいこうぜ」って熱田さんが言い出して2人で観にいったんですけど、その映画がまさかのホモの映画だったんですよね(笑)席一個あけて座って観てたんですけど、なかなか気まずかったですよ、その後のホテルに帰る道のりとか…狭いレンタカーの中あの大男と2人ですからね(笑)
たま:おもしろすぎる!!(笑)
竹中:いや、いい映画だったんですよ? 実話を基にしたすごくいい映画だったんですけど。凄く頭のいい人が暗号を解く機械を造るんですけど…
たま:あ、わかった戦争中の数学者の話でしょ?(ベネディクトカンバーバッチ主演「イミテーションゲーム」)
竹中:そうです、そうです!内容はすごいよかったんですけど、最終的にそれがホモの人でしたっていう。それで裁判にかけられて、え?それで終わり?っていう。なかなかマニアな作品ですよね。でも、熱田さんはそれが観たいって言って「観に行こうぜ」ってなったんですよ。
たま:熱田さんも不思議な人ですね(笑)
竹中:デートしちゃいましたからねー(笑)なかなかないと思うんですよライダー同士、それも先輩と映画なんて。それが最初で最後ですよ。
たま:それもまたひとつのいい想い出ということで(笑)
- ファンの皆さんへ
【縁があればまたどこかで…】
たま:では、最後にファンの方に伝えたいことなどありましたら。
竹中:「今まで応援ありがとうございました」っていうことですね。あとね、去年の最終戦でお会いしたファンの人たちには「来年(2017年)も走ります」っていう話をしてたんですよ。でも、結果的に走れなくなってしまったので申し訳ないっていうことですね。
たま:最終戦の時点では走るつもりでいたんですね
竹中:そうですね。その時は「メーカー変えてでも、どこかいいチームを探して」って思って探していましたしね。でも、いろいろと厳しかったので。
たま:そうですか。ファンの方はちょっとショックかもしれないですね。
竹中:そうですね、ほんとうにありがとうございましたとしか言えないんですけど。縁があればまたどこかで…
たま:街中でいきなり会えちゃうかもしれないしね(笑)
竹中:仕事で出会うかもしれないですからね(笑)
たま:ひとまずはこうして The Newsmoto を通じてファンの皆さんにご報告ということで。
竹中:そうですね。自分のSNS(TwitterとFacebook)でも引退宣言はしますけど、詳しいお話はここに載せていただくのが一番多くのファンに伝わるかなと思いました。チームの先輩であり大学の先輩でもある大山さんがやってらっしゃるサイトですから、そういうご縁もありますし。
たま:ひとりでも多くのファンの方に読んでいただけるようにしたいですね。
竹中:はい。
たま:ありがとうございました。新しいお仕事がんばってくださいね。
かなりのロングインタビューになりましたがモトクロスの話をする時の竹中君はやはり楽しそうに見えました。今までの人生の大半をそこで過ごしてこられたのだから語り尽くせない色々な思いがあるのは当然で、しかし、その半生をリセットして新しい道を歩む決意をされるまでの悩みや葛藤といったものは、すでにご自分の中で整理し終わり納得されているように見受けられました。
「走らないって決めてからは全然トレーニングとかしてなくて。そしたらあっというまに太っちゃいました。ヤバいっす」と屈託なく笑う顔には「引退」という言葉からイメージされる悲壮感は全くなくどこか晴れ晴れしているようにも感じました。
数少ない心残りとしての「ファンの皆さんにきちんとご報告できなかったこと」の始末を The Newsmoto とえかきやたまに託してくださった竹中選手のお気持ちをありがたく受け止め、ファンの皆様には引退の経緯だけではなく、モトクロスに関わる楽しい想い出等もできるだけお伝えできれば… と思いながらお話を伺いました。モトクロスのトップライダーから一青年へと戻られた竹中純矢君がこれから歩んでゆかれる道が明るくやりがいのあるものであようにと祈り、この記事を結びたいと思います。
「たまMOTO」特別編|竹中純矢選手スペシャルインタビュー(vol. 1)
Images: えかきやたま