ニューモトブログ|ダートクール休刊に思う
これまで記事内で「ニューモト雑感」として、当サイト独自目線での解説やら感想、トピックスを織り交ぜながらズラズラとお伝えしてきましたが、今回は雑感の枠を飛び越えて久々の「ニューモトブログ」をシェアします。
タイトルの通り「ダートクール休刊」が発表されました。先日発売されたばかりの 2020年4月24日発売「2020 No.3」をもっての休刊ということに。
ニューモト運営している世田谷レーシングとしても個人的にも長年お付き合いさせていただいただけでなく、創刊時からいち読者としても大変お世話になり、楽しませていただきました。
休刊の理由は知りませんが、コロナウィルス感染拡大の影響で国内外のレースシーンが休止・開催延期中。日常生活でも緊急事態宣言や外出自粛要請等が継続しているこのご時世での突然のお知らせは、残念や悲しいを通り越して「ダートクールロス」喪失感すら覚えています。
個人的には父親が80年代からカリフォルニア出張の機会が多く、物心ついてからのUSモトクロスシーンとの出会いは、お土産の沢山のMX雑誌やMXビデオでした(とても幸運なことだったと改めて思います)。1982年にはジャパンスーパークロス初開催もあり、国内バイクメディアでも海外MXシーンを目にする機会は増えていったと記憶しています。
しかし、アメリカ土産のMX雑誌やビデオから感じ取れるワクワクドキドキ、キラキラしたUSモトクロスシーンの雰囲気を80年代前半の国内バイクメディアからは、キッズ時代の自分が満足するレベルで受け取ることはなくどこか物足りなかったものです。その後、ガルル誌やバックオフ誌が創刊(現在はどちらも廃刊?休刊)。時代はバブル経済期、オフロードバイクブームも高まる中で 1991年に創刊されたのが「ダートクール」でした。
「ダートクール」で見ることが出来たUSモトクロスシーン最前線は、80年代前半に覚えたようなワクワク感があり、写真も情報もキラキラしたものでした。商品紹介やインプレは当時から少なかった印象でUSモトクロスシーンをカルチャーや最先端情報的に紹介されている点がこれまでのバイクメディアと一線を画すものでした。当たり前ですが日本語で読める喜びもあり、こういうMX雑誌が自分が求めていたものだと強烈に感じるほどでした。何度も何度も読み返し、時にはバックナンバーを引っ張り出して時が経つのを忘れて誌面に没頭。今でも断片的に多くの写真やテキストが頭にインプットされたままです。
ダートクール創刊時は個人的にも国際A級に昇格を果たし、鈴鹿サーキットで開催された世界モトクロス選手権やジャパンスーパークロスにもライダーとして参加していた時代。ダートクールで眺めていた海外トップライダーと同じスターティングラインに立つという、貴重で今改めて思い返しても夢のような体験をしていた時代です。誌面にライダーとして何度か掲載してもらう機会もあり、とても嬉しく光栄なことでした。
時期の違いはあれど、私のようにダートクールだからこそのフィルターを通した海外MXシーンに胸をときめかしたバイク乗りは多いはずです。誤解を恐れずに言うならば「AMA イコール ダートクール」という刷り込みが今でもとても心地よく、無意識に常に求めてしまう感覚。そこが、熱心な読者が多いことで知られた、唯一無二な「ダートクール」最大の魅力だったはずです。再びダートクールが紹介する海外MXシーンを目にすることはあるのでしょうか? 休刊前最後の表紙が日本モトクロス界の未来・希望である下田丈選手だったというのは偶然なのか…。今でも雑誌を手に持ち最初にページを開く際のワクワク感は昔と変わりません。「ダートクール」& 浦島編集長、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
話を少し変えて…。関連するトピックとして、出版不況と言われて久しい2000年代。調べてみると1990年代後半から始まり、雑誌の販売数減少幅は特に大きいようでジャンルや認知度を問わずに休刊、廃刊が相次いでいます。90年代に読み漁ったファッション誌や音楽雑誌の多くも休刊や驚くほどに大幅に発行部数を落としています。インターネットやSNSの影響と言われることも多いようですが、理由はそれだけではないでしょうし、本質は違うところにあると考えられています。その証拠に出版業界全体としては昨年の売上をわずかながら回復させたニュースも目にしました(残念ながら発行部数ではありません)。私はかつて音楽業界で仕事をしていました。音楽業界も急激に衰退した時代があり、その時も違法ダウンロードやYouTube等のインターネットを諸悪の根源的な原因として挙げる業界人や評論家が多く、音楽業界が置かれた状況をマクロでなく、ミクロでしか見れていなかったことがありました。時代を見誤り、現状を受け入れずに俯瞰的視点が持てなかったという業界変革期の失敗例として語られることも多いです。
しかし。そんな当時でも某アイドルグループやアニメ関連の音源、○○プロデュース等のアーティスト達がリリースしたCDは、好調な売上を維持・増加していました。時代やマーケットの流れを読み取り、CDを売るだけから体験や経験、付加価値といった要素を組み合わせ、ライブや権利関連、物販等の収益も含めた総合的な取り組みの成功例は、現在ではご当地アイドルからドームツアー行うトップアーティストまでが収益面で成功を収める最も効果的な手法のひとつとして紹介されています。そして、今ではインターネットを通じたサブスクリプションサービスやSNS上で音楽や映像コンテンツを楽しむことが、最も一般的な時代が到来しているのです。
モータースポーツという国内ではニッチなジャンルと市場。インターネットというよりもスマートフォンの出現やSNSの発展・普及により、情報の受け取り方に留まらず、情報という価値や概念そのものが昔とは大きく変わり今でも変化し続けています。バイク情報に最初に触れる媒体がSNS上となるなんて10年前は想像出来なかったはずです。ネットとか紙媒体という議論はあくまで情報に触れる「手段」の話でしかなく「目的」とは成り得ないのです。世の中はサラッとその議論をスルーし、ユーザーは無意識に選択している現実だけが存在するだけ。「点ではなく、面で見て・考える」とは言い得て妙です。
当サイト、ニューモトでも情報やレポートを届けるだけでなく、付加価値としての考察から翻訳、独自取材のモトゴシップ等を通じて、乗るだけでなくエンターテイメントとして、見て楽しめるモトクロスの魅力を発信することを日々模索しながら運営しています。今後は独自の考察を述べる機会がより増えていくかもしれません。
コロナウィルス感染拡大により、健康面だけでなくグローバル規模での経済危機も危惧されています。引き続き厳しい時期が続くかもしれませんが、オフロードバイクやレースの魅力が変わるわけではありません。ライディングの楽しみやレースのワクワク感を取り戻す日は必ず戻ってきます。その時まで、その時以降も、ニューモトをごひいきしていいただけると幸いです。