たまモト|2021 全日本モトクロス注目ライダー「たま推し」vol. 1 田中雅己

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2021年6月5日〜6日は、全日本モトクロス 第4戦 SUGO大会ですね。すでに発表されているエントリーリスト、IA2クラスのメンツの中に懐かしい名前を発見して驚いた方もいらしたのではないでしょうか。2018年の最終戦を最後に全日本モトクロスから姿を消していた、113番田中雅己選手がゼッケン48番でレースに復活。SNSで肘爆Photoさん撮影の予告動画(?)をご覧になり「もしや?!」と期待しておられたファンにとっては「やはり!!」と確信を得たニュースだったかもしれません。

田中選手が現役時代、イチオシライダーだと公言して憚らなかったえかきやとしてはこの復活劇についてぜひとも詳細を伺いたいところ…というわけで、さっそく田中選手にインタビューを申し込みました。3年前の引退について、そこから今日に至るまでの道のり、そしてもちろん今回のSUGO大会への参戦について… 詳細に語っていただきました。

■SUGO大会参戦について
たま:おひさしぶりです(笑)
田中:おひさしぶりです(笑)
たま:こんな風にお話を伺うのは何年振りとかですよね。
田中:そうっすね。
たま:田中雅己選手がSUGO大会を走られるということでお話を伺おうってことになったんですが。
田中:はい。
たま:乗られるのは(Kawasakiの)開発マシンになるんですよね?
田中:そうですね…先行の…
たま:その辺にも注目してください…っていうのは書いちゃって大丈夫な話なのかしら?
田中:うーん。ぱっと見には現行と一緒なんで。中身は先行で開発してますよっていうだけなんで…。
たま:なるほど…ってすいません、いきなり核心みたいな話になっちゃいましたね。雅己君が、Kawasakiのテストライダーをされてることや、今回の参戦がテストライダーのお仕事だってことも「書いて大丈夫ですよ」っていう許可はいただいてるんですけど。
田中:あ、そうなんですね。でも、現状、現行車として売っているパッケージとサスとかは一緒…ノーマルのままなんですよ。そのパッケージでレースを走ってみてどうなのかっていうテスト内容なんで、あんまりファクトリー感はないんですよね。
たま:なるほど。今回の参戦を紹介するにあたって、田中雅己選手というライダーに興味がある方はもちろんたくさんいらっしゃると思うんですけど、雅己君がテストライダーをやっててレースを走るってなったらマシンも注目の的になるだろうし、そういう所に興味がある層にもアピールした方がいいかなって思ったんですけど。
田中:ああ、それはたしかに。

pc: 肘爆photo
動画撮影中のヒトコマ。肘爆photo光希君は現役時代「田中雅己選手が憧れの存在だった」と言ってくださったそう。雅己君も「今、自分が現役だったら撮ってもらいたかった」と、ある意味相思相愛最強のコラボ?!

■2018年の引退について
たま:とはいえ、まずはあれだ。3年前に全日本ライダーを引退されたことについてと、あとその後の3年間どうされていたか。そのあたりを伺ってからにしましょうか。
田中:はい、そうですね(笑)
たま:ラストレースはいつになるんですかね?
田中:2018年の最終戦ですね。
たま:その段階でもう辞めるつもりでいらした?
田中:そうですね。辞めようと思ったのはその年の藤沢(第6戦東北大会)ですね。1ヒート目は4位やったんですけど、2ヒート目は吹っ飛んで記憶がなくなってしまって。それで恐怖を感じたというか…ほんとに全然思い出せなくて、もしかしたらそのまま死んでたかもしれないっていう恐怖と、あとはこのまま続けていっても先がないというか…自分の(将来に対する)ビジョンが見えてこない。怪我のリスクと自分がライダーとして続けて行くビジョンが見えなくなったんで、藤沢大会の後に辞める事を決意したんですね。
たま:広島のラムソンジャンプで吹っ飛んで病院に運ばれたのはその年でしたっけ?
田中:いや、それは2016年です。250の時ですね。
たま:その時にはそういう恐怖みたいなのは感じなかったの?
田中:その時は…一週間くらいは意気消沈したんですけどそれよりも「まだやれる」っていう気持ちの方が強かったですね。
たま:なるほど。じゃあそこから2年の間に、現実的にレースを続けて行くのが大変だっていうことも沢山出て来て…リスクの方が大きいなっていう気持ちになっていったんですかね?
田中:そうですね。リスクと、後は年齢ですね30歳前っていうことで。
たま:体力的にしんどくなったっていうのはあるんですか?
田中:うーん…その最後の年は同じチームのIBのコと一緒に毎日トレーニングしてたんですけど、今迄やってきた中では一番追い込んでいた年でもあったんですよ。ただ、それでも怪我しちゃって…それで燃え尽きたカンジはありましたね。そのコの面倒も見つつ自分も現役で走ってたんで負担が大きかったっていうのもあったかもしれません。
たま:そうですか…いろいろと考える年ではあったんですね。
田中:そうですね。
たま:で、その藤沢で「今年でもう辞めよう」ってなって最終戦迄走られて、オフィシャルには告知されないまま辞められたじゃないですか。
田中:終わってから辞めたことを発表した形ですよね。「今年で辞めます」って言ってから最終戦を迎えたわけじゃないです。
たま:そうだよね。だから「雅己君は来年も走る」って思ってたファンはいっぱいいたと思うし、ご挨拶できずに終わっちゃった人も…まあ、今更ですが…あれでしたよね、最終戦、リタイアだったんですよね。
田中:そうですね。最後エンジントラブルで…らしい、っちゃらしいですけどね(笑)
たま:それでもまあ、自分なりに「これでいい」って思ってお辞めになった?
田中:そうですね。「引退する」って公言しちゃうとそこで気持ち的に折れるっていうのが…自分にはあると思ったんで。最後まで攻める姿勢で走る為にあえて公言しなかったっていうのはありますね。
たま:それはとても雅己君らしいですね。自分の言葉に引っ張られやすいというのを自分で知っているという…(笑)
田中:そうですね(笑)
たま:それでもシーズンオフに地元で引退セレモニー的なことはされて…
田中:そうですね、下市と生駒でしてもらいました。

 

■引退後の目標
たま:2018年の最終戦で辞められて、その後の3年間は何をされていたんでしょうか?
田中:引退して…SUGO終わった直後からは、競艇選手になろうと思って減量を始めたんです。「競艇選手になりたい」っていう意図は「どうせやったらモトクロスでやってきた事を活かしたい」っていうのがひとつ。あとは「現役が長くできる」っていう事。あとはタイミング的に試験を受けられる年齢が30歳までだったんで…辞めた時が28歳で、1回チャンスがあるっていう事で。辞めてすぐに目標がないままだといけない気がして「次の目標は競艇選手になる」と。試験が(翌年の)5月だったんですよね…で、そこにむけて減量に挑戦しました。
たま:むっちゃ痩せられましたもんね。
田中:そうですね、16キロですかね、減量しました。
たま:大隅くん(田中選手の幼なじみでボクサーに転向された元IA大隅健人選手)に指導してもらったんでしたっけ?
田中:そうですね(笑)10キロくらいはすぐ落ちたんですけどそっからが落ちなくて。体重落とすだけじゃなくて…体力テストとかもあるんで…一回筋肉落としてからまた筋肉作り直すと体重がなかなか落ちなくて大変でしたね。
たま:そんなこともありましたねえ…正直ね、私、雅己君なら行けると思ってたんですよ。
田中:まあ…たぶん…頭が…(苦笑)
たま:筆記試験とかもあったんですか?
田中:はい。
たま:最初、特別枠(元プロ選手等の推薦枠)で受験する話もあったじゃないですか?
田中:特別枠は申請したんですけどだめでしたね。
たま:ランキングとかが関係あるんでしたっけ?
田中:ランキングですね。他の推薦枠でも申請はしたんですけど通らなくて、仕方なく一般枠で受験したんです。
たま:で、勉強か…
田中:勉強でしたね(苦笑)15年振りくらいに勉強したんですけどね。
たま:で、結果としては「競艇選手になる」という目標は達成できず。
田中:そうですね。
たま:ちょっと凹んで?
田中:凹んでというか、何をすればいいかわかんない状態ですね。ちっちゃい時からバイクをやってきて「一番になる」とか「速くなる」とかそういう目標をもって生活してきてたんで「人生で目指すのものが何もなくなる」っていうのが初めての体験で。1ヶ月くらいはホントに何をしていいかわからずにいましたね。競艇選手(の試験)を落ちた時の事を考えてなかったんで…
たま:うん、私も考えてなかったので、それを前提にインタビューとか考えてましたから、ちょっとどうしようとか思ってました。…とはいってもそこからね、次の目標もできたりしたわけですが…そこはね、今回は触れないってことで(笑)。
田中:はい(笑)

pc: 肘爆photo
肘爆photoには今回のSUGO大会の動画撮影もお願いしているとか。
レース後のお楽しみも用意するあたりがサービス精神の塊、田中雅己選手らしい。

■テストライダーとして
たま:今回のSUGO大会はKawasakiさん(Team Kawasaki R&D)から出られるということで。紆余曲折あってKawasakiでテストライダーをされているのが現状ですよね。
田中:そうですね。
たま:そのお仕事はいつから?
田中:2019年の8月…9月…くらいからですね。
たま:引退された翌年の夏ということですね。それはKawasakiさんからお声がけがあって?
田中:(Kawasakiでテストライダーをしている)勝谷(武史)さんから紹介してもらったんです。(Kawasakiが)テストライダーを探しているというので、僕の事を紹介してくださったみたいで、そこから声をかけていただく流れになったんですね。
たま:それからはお仕事としてKawasakiのテストライダーをされつつ、他の事(笑)もされつつ…今日に至ると。
田中:そんなカンジですね(笑)
たま:で、今回SUGO大会に出られるのは開発のお仕事としての実戦テスト…みたいなカンジですね?
田中:そうですね。
たま:雅己君は現役時代、最初はYAMAHA、その後HONDAに乗ってらしたじゃないですか。で、Kawasakiは今のお仕事になってから乗り始めた形でしょ?
田中:そうですね。
たま:どうですか?乗ってみたカンジ。
田中:エンジンが走る…っていうのはあらかじめ聞いてたんです。で、最初に乗った時「すげえ走る!」っていうのが印象的でしたね。マシン自体も癖がなくて。引退してから全然乗ってなかったんですけどわりとすんなり乗れましたね。
たま:HONDA時代もテストライダーのお仕事をされてたじゃないですか?テストライダーもスキルがいると思うんですよ。ニュアンスを伝えるとかそういう。その点で自分は向いてるなとか思ったことはありますか?
田中:そうですねえ。僕、レースやってた時から、元々ガンガン走る方じゃなかったんで…どちらかといえばマシンの性能を活かしつつ乗るような乗り方だったんで。そういうのを考えると「(マシンの挙動等を)感じ取りやすい」のかなとは思いますね。
たま:マシンと対話するのが現役の時からのスタイルだったので、それが今のお仕事に繋がってるのかなあ…と。
田中:そうですね。
たま:で、去年はレースに出るというお話はなかったけれども、今年は出られることになったと。それはいつ頃に決まったんでしょう?
田中:今年の始めくらいだったかな…「レース出てみるか?」みたいな、そういう話があったんですよね。でも、テストで(走ってる時)はガンガン、レーススピードで走ってるわけでもないんで…最初は不安もありましたね。引退という事で一区切りつけたのにまたレースするっていうのも、自分的には腑に落ちないというか。
たま:自分の中で踏ん切りをつけちゃってるから、また出るのもなあっていう?
田中:そういう迷いはありましたね。
たま:それでも出ようって思ったのはなぜですか?
田中:うーん。仕事として「レースもマシンを作る上で必要な要素」というのを感じたので、それなら出てみようかなっていうカンジでしたね。
たま:気持ち的にね、がっつりレースをやってた時代と、仕事としてレースに臨むっていうのだとかなり違う…のかな?
田中:けっこう違いますね。やっぱ、もう、自分はレーサーじゃないんで。自分本位の考えをぶつけちゃうと話が変わってくるし。開発って言う目的があってレースするっていうのを頭に入れながら走るというのは…けっこう「広く見る」っていうか…冷静に走らないといけないな…っていうのはありますね。
たま:でもわかんないですよね、いざ乗ってみたらね?(笑)
田中:そうですね(笑)まあでも、ちゃんと完走するっていうのが一番にあるので。そこはちゃんと…そもそも「普通に走れるのか?」っていうのもありますし。レースやってた時の感覚が残ってても実際に走ってみたら…。やっぱ3年もレースしていないとどうか…走ってみないとわかんないとこもありますしね。
たま:そのへんはまた走ってみてから聞いてみたい話ではありますね。
田中:そうですね(笑)

pc: @kazuki.37

■3年ぶりの全日本モトクロス
たま:クラスはIA2ですよね?
田中:IA2です。
たま:IA2だともう知らないライダーがいっぱいいるんじゃないですか?
田中:そうですね…僕がIAで走ってた時に50ccで走ってたようなコがいっぱいいるんで…ちょっと信じられないですね(笑)まあでも僕の上に勝谷さんいますけどね(笑)【今回、勝谷武史選手もIA2クラスに参戦します】
たま:もうちょっとしたらじゅんじゅん(IBクラス田中淳也選手/CXの頃からの熱心な雅己選手ファン)とかも一緒に走ることになるかもしれない(笑)
田中:そうですね(笑)
たま:それこそ漱也君(IA2クラス中島漱也選手)とか一緒に走ることになっちゃったじゃないですか?
田中:そうなんですよ!それがすごい楽しみですね。
たま:漱也君はもう知ってらっしゃる?楽しみだって言ってらした?
田中:知ってます。楽しみだって言ってましたね。
たま:内心「蹴散らしたるぜ」って思われてるかもしんないよ?(笑)
田中:いや、まあまあまあ、それぐらいで来てもらったほうがね。(笑)
たま:そうやって面倒見ていた後輩達が走っているクラスですもんね。
田中:そうですね。(年齢が)10コ違ったりもしますもんね。
たま:知らないコが多い…っていうか知ってるコの方が少ないんじゃないですかね。小川選手とか?
田中:そうですねえ…一緒に走ってたのは小川選手くらいですかね。
たま:そう考えると恐ろしい話ですよね(笑)勝谷さんが今まで何度もやってきた事をこれからは雅己君もやるということで(笑)
田中:まあ、勤まればいいんですけどね(笑)あの人はネっからのレーサーですからねえ。
たま:たしかに!(笑)ホントに枯れないよね、彼はね。
田中:枯れないっすね、はい(笑)
たま:そういう意味では、お仕事で走るっていう部分もありつつ、勝谷さんみたいに後進を鍛えるレース運びみたいなものを、こちらは期待しちゃったり…しますが。
田中:そうですね…あの人は本当に面倒見がいいし、勝谷さんが出るっていうのも今回のモチベーションではありますね。自分も現役の時にずっと追っかけていた人なんで、その人とまた一緒に走るっていうのは、今、レースにむけて頑張れているモチベーションではありますね。
たま:では、今はレースにむけての練習も…
田中:そうですね、乗るようにはしてますね。とはいってもほとんどテストで乗ってる時が多いので、練習ていう練習はそこまではできてないです。レースにむけてちゃんと練習したのはまだ2回くらいですね。
たま:では、楽しみでもありちょっと怖くもあり?
田中:そうですね。レースは走ってみないと。予選を走ればだいたいどのへんかっていうのはわかるけど。走ってみないと自分のレース勘っていうのがどこまで鈍っているのかわかんないんで。
たま:その辺は練習でいくら走ってもわからないものではありますね。
田中:そうですね。自分で走ってても速いんか遅いんかわかんないんですよ(笑)
たま:でも楽しみでしょ?
田中:そうですね、楽しみは楽しみですね。親には反対されましたけど(苦笑)
たま:え?!!まじで?お父さん?
田中:オヤジもオフクロも…
たま:うわあ…。まあレースが危険な事をよく知ってらっしゃるご両親だからこその反対…ってのはありますよね。
田中:そうですね。
たま:雅己君が現役を退かれてからSUGOのコースって変わったじゃないですか。すでにコースは走られたんですか?
田中:はい、メーカー合同の事前テストで走りました。
たま:どうでした?
田中:コースがかなり荒れてて…レース本番の時くらい荒れてたんですけど…全然乗れなかったですね。会社のテストとかだとコースはそこまで荒れないんで。荒れてない路面だと全然普通に走れたんですけど荒れてるコースっていうのは現役の時から走ってなかったんで…。それまではけっこう調子良かったのに事前テストで心折れましたね(苦笑)
たま:あああ…A級が荒らしたコースの凄さをあらためて実感したという…
田中:そうですね。全然違う感っていうのはありましたね。
たま:そっかあ…でもがんばるしか?
田中:はい!

■最後に
たま:めっちゃ長くなっちゃいましたが、最後に何かメッセージを…ひょっとしたら「田中雅己選手が出るからやっぱSUGOに行くわ」ってなるファンもいるかもしんないし。
田中:そうっすね…うーん。僕はもう現役を辞めてるんで「僕を応援して下さい」って言うのは…ちょっと複雑ですね。というよりかは、皆に興味を持ってもらいたいって言うのがありますね。現役でやってるライダーもそうですけど…お客さん離れっていうのを僕自身も感じているので…なんと伝えていいのか難しいですけど…全日本モトクロス、MFJさん自体もいろんなアプローチをされてるんで、僕も何らかの形でそこに貢献できて業界全体が盛り上がればいいなとは思いますね。
たま:謙虚なお言葉をいただきました。けどね、雅己君が表彰台を獲ってくれちゃって全然かまわないんですよ?
田中:はい(笑)

 

『2021 motocross ride [TANAKA MASAMI 113→48]』
「エントリーリストが発表になる前に出したかった」という動画。撮影はかなり前になされていて発表するのが待ち遠しかったそうで…仕込みは十分ってことですね(笑)

 

現役時代から自分の事を言葉にするのが上手な人だなと思っていましたが、今回こうやってお話を伺ってみて改めてその表現能力に感心させられた田中選手。いろんな考えや想いを率直にお話しいただきました。このインタビューを踏まえて、今回のSUGOのレースを観ていただくとちょっと違った視点で観ることができるかもしれません。レースに臨んでの言葉は謙虚で慎重でしたがマシンにまたがってスタートラインに立つと別人格が現れるのもまたA級ライダー。SUGOでは久々に現役時代の熱く華やかな走りを見せてくださると期待しましょう!


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